氷見市はハンドボール競技が盛んで、小学生からプレーする児童も多い。毎年3月には中学生の全国大会が開催されていることもあり、ハンドボール選手にとっての聖地の一つだ。その氷見市を拠点とするハンドボールチーム「富山ドリームス」が2022年に発足し、現在実業団の強豪が競い合うリーグHに参戦している。
他の実業団チームと違う特色の1つが、選手の「デュアルキャリア」。選手はトップアスリートとして競技に打ち込みながら、県内の様々な企業で社会人としてのキャリアを積み上げている。チームを運営する一般社団法人富山ドリームスの代表を務める徳前紀和さん(58)は「氷見を巣立ったハンドボール選手が帰ってくる場所を作りたかった」と話す。
徳前さんは、現在氷見高校の副校長。学生時代は選手として活躍し、教師になってからは県内の各校でハンドボールの指導にあたってきた。母校氷見高校ハンドボール部の監督をしていた2018年、3つの全国大会で優勝し、改めて氷見が「ハンドボールの町」として大いに盛り上がった。
それをきっかけに、翌19年に「富山ハンドボーラーズDAY」というイベントが開催された。氷見高校を含む県内出身の大学生による即席チーム「富山ドリームス」を結成し、強豪の筑波大、日本体育大、明治大と2日間にわたって熱戦を繰り広げたところ、会場には延べ4千600人が足を運ぶ大成功となった。
ハンドボールのような団体競技では企業の実業団チームに所属して、競技中心の生活を送る選手がほとんどで、引退後に改めて社会人としてのキャリアをスタートするケースが多い。一方で、富山県内には多くの優良企業があるのに、少子高齢化の中で人材不足に悩んでいる。イベントの成功もあり、「この2つを掛け合わせることで、選手にとっても地域にとってもウインウインのチームができるのではないか」という徳前さんの考えに、いくつかの企業が賛同し、チーム結成のプロジェクトが動き出した。
選手は働きたい会社に就職し、他の社員と同様の仕事をこなしてキャリアを積む。会社は夜の練習のために勤務時間の短縮や試合遠征などを認めながら、フルタイムの待遇で雇用している。
社内では試合の応援を通じて一体感が生まれるほか、アスリートが短い勤務時間の中で業務をこなす姿勢が、職場にスピード感をもたらすなどの効果も出ているという。チーム発足時、9社だった選手の雇用先は2年間で22社に増加し、賛同企業はさらに増えている。
試合以外にも選手によるハンドボール教室を開いて、ハンドボールの魅力を広げるとともに、運動部に所属する学生向けのキャリア講習会などを開いて将来のキャリア形成を考え、県内企業を知る機会を作っており、さらにハンドボール以外のスポーツ選手のキャリア支援にも取り組んでいく考えだ。
「地方でのスポーツは運営が難しいものだが、多くの企業の支援、市民の応援を頂いてスタートできた。地域の人が応援し、子ども達が選手に憧れ、チームを通じて人も企業も元気になる存在でありたい」と徳前さんは話す。
来年は教え子を含む富山県出身の3人がチームに加わる予定で、夢に描いたスポーツによる地方創生、人の環流が動き始めている。
富山県人 2024年12月号