魚津市にある県東部地区唯一私立高校「新川高校」は、「新川創生プロジェクト」と題したキャリア教育を積極的に推し進めている。富山地区に若者が流出し、人口減少の加速度が増している新川地区の現状に荒井公浩理事長(52)は危機感を抱いており、「新川高校は、地域に根ざす若者を育て、地域に送り出すという、人の循環を生み出す存在にならなければならない」と語る。
魚津市を中心に新川地域の社会、経済、文化など地域全体を教材とした学びを実践し、2021年、文部科学省と経済産業省が実施する「キャリア教育推進連携表彰」の優秀賞を受賞。富山県内で初めて、また私立高校としては全国初の評価を受けた。
新川創生プロジェクト
新川高校は県東部の多くの生徒に高等教育の機会を与えようと、1973年に設立され、ピークの1991年には千300人の生徒を抱えた。しかし、少子化や富山市の高校への進学の増加もあり、公立高校でも定員割れが起こる近年、同校の全校生徒数は300人程度にまで減少した。
富山県に限らず、地方では都市部に憧れる若者、地元の魅力を語れない大人が多い中で、新川高校は地元で就職する卒業生が多いことから、「地域に残り、地域を支える若者の育成」に舵を切った。地域のことを学び、魅力を理解した卒業生を、地域に送り出そうというのだ。
最初の取り組みは2017年、魚津の産業イベント「まるまる魚津」への出店。PTAの保護者や地元のコーヒーショップに協力してもらい、生徒が「魚津の水に合うブレンドコーヒー」を企画・商品化してイベント会場で販売した。高校生という珍しさだけでなく、地元の水の美味しさも伝わり、17万円を売り上げる大繁盛となった。また勉強が得意ではない生徒も、商品開発や接客に生き生きと活躍する機会にもなった。
PTA事業から始まったこの事業は、学校公認の部活動「コミュニティビジネス部」になり、魚津特産のリンゴを使った加工品や、漁場の海藻を食べ荒らすウニを使った商品開発など、地域の特徴を生かしたビジネスを学んでいる。
同時に魚津市、富山大学との連携による地域課題解決型学習の授業も始まった。教室の中だけでなく、魚津市全体を教材として、企業や農業の現場や市の職員などから地域の魅力や特性を学び、生徒らが自ら社会の課題を見つけ出し、大学のサポートを受けながら解決策を考えるというもので、魚津市長に提案したり、地域で活躍する人をポストカードにして紹介したりしている。
さらに社会人や大学生など教職員以外の大人を校内に招いて交流する場を積極的に設け、様々な価値観に触れる機会を作っている。地域を支える若者を地域一帯となって育てようという取り組みだ。
地域の若者から社会の循環を
今年の入学生は9割が公立高校を受験しない専願者になり、濱元克吉校長(49)は「最近、新川高校生は元気だとよく言われるようになり、ハローワークや企業からも卒業生を高く評価してもらっている」という。
「これまで卒業後の進路は、偏差値や会社の知名度など、大人が作ってきた価値観が当てはめられてきたが、自分で選択できる生徒を育てたい」と話す。
地域で学んだ若者が地域で活動し、社会の循環を生み出す、新たな流れが動き始めている。
富山県人 2024年11月号