昨年8月、富山地方鉄道立山線釜ヶ淵駅の近くにコミュニティスペース「釜ノ蔵」がオープンした。田園風景が広がる立山町釜ヶ渕地区の活性化に取り組む「釜ヶ渕みらい協議会」の活動拠点として集会やイベントに活用され、金曜〜日曜はカフェとしても営業しており、地域住民の集いの場所になっている。
地域の集まり場所「釜ノ蔵」
釜ヶ渕地区は立山の麓に広がるのどかな田園地帯で人口は約千500人だが、この25年間で3割近く減少した。少子高齢化が進み、近年では地区内の保育所が閉所し、釜ヶ渕小学校の統廃合も検討されている。兼業農家や集落営農によって行われてきた米作りも、農家の高齢化、後継者不足から休耕田が目立ち始めた。
2021年から自治振興会、区長会で農地の管理活用などについて話し合いが始まる中で、町から「農村型地域運営組織(農村RMO)モデル形成支援事業」を活用しないかとの提案があった。これは2022年にスタートした国の事業で、「農地保全」、「地域資源活用」、「生活支援」の3つに取り組む農村の住民組織作りを支援するもの。県内で初めての農村RMOとして22年5月、同協議会が設立された。
組織のメンバーは自治振興会、区長会、農業従事者に加え、青年団や社会福祉協議会、県外から移住して地域作りに関わる「地域おこし協力隊」のメンバーなども加わった。話し合いの中で、昔に比べて人間関係が希薄になっているという問題提起があり、「いつでも誰でも立ち寄れる場所があったらいいね」と、農協の倉庫を改装して「釜ノ蔵」を整備した。
古い倉庫を住民らで清掃し、ペンキを塗ってきれいにし、家具や備品を地域の人が持ち寄り、地区で活動するアーティストの作品が空間を飾った。地域おこし協力隊の女性がカフェを営業し、納涼祭や鍋まつり、農産品直売など協議会のイベントだけでなく、ふれあい食堂やヨガ教室、同窓会などと、多くの人に活用されている。
農地活用では休耕田を市民農園として貸し出したり、農業体験イベントを実施したりしているほか、地域の特産品としてサツマイモを活用した加工品の商品開発も始めている。
顔の見える地域づくりを
事務局長として協議会をまとめる村井一仁さん(48)は、消防団や学校のPTAなど地域の様々な活動に関わってきたが、釜ノ蔵では「普段顔を合わせない人がやって来て、地域の中で新しい人の繋がりが広がっている」と言う。
農業体験でも、当初は普段土に触れる機会のない富山市街地の人などの参加を想定していたが、立山町内からの参加者も多く、地元に農業に関心がある人がいることに気づくと同時に、若い農家も先輩から教わることが多いという。
四季の立山の眺めが楽しめる釜ヶ渕地区、顔の見える温かい人付き合いを基礎にして「みんなでアイデアを出し合えば、暮らしやすい、住んでみたいと思える地域になる」と話す。
月刊富山県人 2024年8月号