小菅沼・ヤギの杜(魚津市)

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魚津市西部の松倉地区、松倉城跡に近い中山間地域にある小菅沼集落からは、斜面に築かれた棚田の向こうに富山湾と遠く能登半島を望む絶景が広がる。早くから過疎が進んだ地区の一つだが、地区内外の8人で作るグループ「小菅沼・ヤギの杜」のメンバーが中心となって地域を守っている。

代表を務める金森喜保さん(70)が子どもの頃、小菅沼には15世帯程度が生活しており、友達もいたが、昭和47年に魚津西部中学校の松倉分校が廃止されると、子どもを持つ若い夫婦の多くが学校のある地区に移り住み、集落の高齢化が急速に進んだという。

以前は千枚田のように小さな田んぼが重なり、田植えも稲刈りも手作業でするしかなかったが、土地改良によって田んぼの面積が大きくなると、コンバインなどの農機具が入るようになり、日常の水の管理などは集落に残ったお年寄りに任せ、若い人は人手が必要な時に上がってくることで営農が成り立つようになった。一方で空き家の増加に伴い、柿の枝がクマに折られたり、畑の農作物がニホンザルに荒らされたりする被害が目立つようになった。

金森さんは牛を放牧して、野生動物と人里との緩衝地帯を作る「カウベルト」を参考にして、高齢者でも世話がしやすいヤギの飼育を始め、鳥獣被害から田畑を守ろうと2008年に「ヤギの杜」を発足させた。サル防除の効果は限定的だったが、この様子がニュースになると、ヤギを見に大勢の人が小菅沼を訪れ、ヤギと触れ合い、棚田の景色を眺め、癒やされて帰っていくようになった。

当初から活動に関わっている黒部市在住の柴沢美恵子さん(71)も同様で、金森さんとは高校時代から顔見知りだったが、初めて小菅沼に来たとき、景色に感動したという。以来、稲穂の色が違う古代米を使った「稲作アート」や、急な斜面に残る小さな段々畑を真っ赤に紅葉するコキアで彩る「コキアの灯り」プロジェクトなどを実施して小菅沼の見どころを作り、田植えや稲刈りを市内の小学生や県内の親子連れに体験してもらい、里山の魅力を発信してきた。カメラマンにも人気の撮影スポットとなり、10周年の2018年には新川文化ホールで「ヤギの杜写真展」が開催されている。

古代米で描く稲作アート

棚田で育ったお米や古代米、大学生と一緒に育てたハーブを使ったハーブティー、ルバーブのジャムなど次々に商品化し、直売所やふるさと納税の返礼品で人気の商品になっている。

ヤギの杜が発足した当初、小菅沼には9世帯が生活しており、柴沢さんは地域のおばちゃん達に受け入れてもらって里山の生活の知恵だけでなく、人としての振る舞いを学んできたという。

その柴沢さんが可愛がってもらったおばちゃん達は今では、亡くなったり、高齢者施設に入ったりしてしまい、小菅沼で暮らす人は2人になってしまったが、金森さんは「豊かな自然との共存を図る里山は衣食住に繋がる様々なことを教えてくれる。この景色を守り、里山の役割を子ども達に伝えていきたい」と話す。

コキアで飾った棚田の風景

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