今年4月、富山地方鉄道中滑川駅前の旧農協会館跡地に建設された複合施設「メリカ」の全面運用が始まった。3階建ての建物は、災害時に避難スペースとなるホールや備蓄倉庫など防災施設としての機能を備えると同時に、イベントスペース、ダンススタジオなどが入り、日常の賑わいや交流の拠点となることを目指して市が整備した。
館内にはカレー屋、コーヒー店、クレープ店の3店舗がテナントとして入る飲食スペースがあり、イベントスペースでは定期的に滑川高校生による模擬店や地元農産品のマルシェや子ども向けのダンスレッスンなどが開かれている。
指定管理者として施設運営を任されたのは、地元ボランティア団体の「ばいにゃこ村」で、富山県非公認ご当地キャラクターの「ばいにゃこさん」を考案した樋口幸男さん(44)が代表を務める。春のオープニングイベントには市内外から大勢が集まり、その後も賑わいを作り出している。
子どもの笑顔が活動の原点
樋口さんは山梨県出身、2008年に富山県に移住してITコンサルタント業を営んできた。娘が生まれたのをきっかけに、富山県で子ども達が笑顔で暮らせるように、夢を持って成長できるようにと富山の売薬さんをモチーフにした「ばいにゃこさん」を考案し、14年から自主的にボランディア活動を始めた。幼稚園の行事や地域のイベントなどへの出演から始まり、海岸の清掃や高齢者向けのスマホ教室の開催など、本業の合間を縫って、活動の幅を広げてきた。
21年、県の主催で滑川市民が未来の街について話し合うワークショップが開かれ、地域の活性化や街づくりについて多くの人が夢を語り、アイデアを出した。当時建設中だったメリカはそれを実現できる施設だと感じ、指定管理者の募集に手を挙げたところ、採択され、子ども達が誇れる故郷を作るために活動している。
みんなが応援する優しい人の街
メリカは夢に挑戦する人を応援する場所にしたいと考えている。富山県はチャレンジする人が少ないといわれるが、チャレンジする人を応援する機運がもっとあれば良いと感じている。
また「出る杭は打たれる」というが、新しいことに挑戦しようとする人は、冗談であっても、ほんのささいな一言が意欲をそいでしまう。自身もそうした言葉に何度も傷ついたという。
子どもが夢を持って挑戦できるようになるには、周囲の大人が挑戦して、みんなで応援し、褒め合うようにしないといけないと思っている。メリカは挑戦する人を応援する場所、まずは夢を追いかけてメリカで起業した3つの飲食店を応援することがスタート。そして、地域で頑張っている人を集めて交流するイベントを定期的に開催し、挑戦する仲間との交流を促している。
富山県は若者の県外流出が問題となる中で、「富山が大好きになれば、出て行く人は少なくなり、出て行った人もふるさとに戻ってくる。そのために子どもが笑顔で暮らせることが大切」という。「すごい技術がある人や、すごいノウハウの持ち主がたくさん育つ街というよりも、ちょっとした挑戦を応援できる『優しい人』が多い街がいいですね」と話す。
月刊富山県人 2023年11月号