水田の中に「カイニョ」と呼ばれる屋敷林に囲まれた家屋が点在する砺波平野の散居村。日本の原風景の一つと称され、初めて訪れる人には美しさと懐かしさも感じさせる。カイニョは各家で代々受け継がれてきたが、高い樹木の管理や、大量の落ち葉の清掃は大変な労力を要するため、近年は手入れされず荒廃したり、伐採されてしまったりする姿が見られる。
こうした中、小矢部園芸高校専攻科の卒業生や在校生を中心にしたボランティア団体「カイニョお手入れ支援隊」がカイニョの維持管理を支援し、散居村の景観を守ろうと活動している。
高齢化が進む散居村

散居村の風景に屋敷林のない家も増えている
カイニョは山から吹き下ろす春の強風、夏の日差し、冬の風雪から家を守り、枝や落ち葉は燃料に、増改築の際には建築資材に使われるなど、砺波野の自然と共存してきた農家の知恵が詰まっている。
しかし、少子高齢化と核家族化の進行により、砺波市では65歳以上の高齢者だけの世帯が全体の25%を占めて手入れが困難な家が増えている。
市では剪定費用の一部補助も行っているが、年金生活の高齢者世帯も多く、2020年に実施した屋敷林実態調査では、屋敷林の管理を造園業者に依頼しているのは15%にすぎない。手入れを諦めてしまったり、逆に屋敷林を伐採してしまうケースが増えており、調査対象となった5千773件のうち、高い樹木が家を取り囲む旧来のカイニョの景観を残しているのは2割程度となっている。
カイニョに惹かれ砺波に移住
支援隊の松田憲代表(77)は富山市出身。会社員時代は転勤で日本各地の生活を経験したが、砺波出身の妻の実家を訪れるうちに、散居村の風景に惹かれ、退職後の2012年に砺波市に転居した。

手入れ前(上)と手入れ後(下)
砺波に来てカイニョ保全の危機的な状況を知り、造園の知識を学んで役に立ちたいと、小矢部園芸高校の専攻科に入学した。同校専攻科は2年間で園芸、造園の知識と技能を学ぶもので、定年退職後の学び直しに来る人も多い。松田さんの「カイニョを守りたい」という考えに同期の23人が賛同し、2014年に支援隊を結成してボランティア活動を始めた。隊員や地域の人から支援が必要な家の紹介を受け、年に2〜3件の整備活動を継続している。現在、同校の卒業生、在校生を中心に隊員は180人、中には支援隊に入りたいと小矢部園芸高校専攻科に入学した隊員もいるという。
ニュースなどで活動が紹介されることも増えたが「自分の家の管理は自分達で」という意識が強く、高齢者世帯から直接依頼が来ることはほとんどなく、「本当に支援が必要な人に活動が届いていない」ともどかしさを感じている。住んでいる大家族によるカイニョ維持の前提が崩れている今、地域で守る必要性を感じており、地域の人と一緒に活動をし、作業の指導やリーダーの育成にも取り組んでいきたいと考えている。
また、剪定した木を資源として活用する動きも出始めている。昨年、散居村の関係者や経済界などで「となみ野散居村サステナブル推進協議会」が発足した。地元企業と協力し、剪定枝からのアロマオイルの抽出やカイニョの手入れ体験ツアーを行ったほか、たい肥への活用も模索する。
「実情を広く知ってもらい、地域や多くの人が協力して散居村の景観が引き継がれるように」と願い、支援隊の活動を展開する。