小矢部市の南西部、石川県境に隣接する北蟹谷(きたかんだ)地区は、人口の減少や空き家、耕作放棄地の増加など、日本の地方に共通した課題を抱える中で、「みんなが顔見知りの地域づくり」をテーマに人の繋がりを基盤にした地域活性化の活動を展開している。
人の顔が見える拠点「村の駅」
北蟹谷地区は9つの自治会で構成され、約390世帯、千200人が暮らす。1979年に北蟹谷小学校が近隣小学校との統合により閉校したが、各町内の自治会活動以外にも営農組合や消防団、長寿会、児童クラブなどの団体が一堂に集まる親睦会「蟹和会」を定期的に開くなど、繋がりを保ってきた。
しかし、自動車が普及するにつれて商店や飲食店などが閉店してしまい、日々の暮らしの中で買い物のついでにおしゃべりをしたり、一杯飲みながら話し合う機会がなくなり、挨拶も交わしたことがない人も増えた。
2015年、北蟹谷自治会の会長だった松井清さん(72)は、人間関係が希薄になりつつあると感じ、地域の諸団体に呼び掛けて「北蟹谷地域活性化協議会」を設立、国の地域支援事業の採択を受け、地域コミュニティの維持のため、交流促進の取り組みを始めた。
最初に取り組んだのが地域の人が気軽に集まれる「村の駅きたかんだの郷」の整備。この施設は、もともと閉店したガソリンスタンドの建物を農産物直売所として活用していたのだが、協議会で改装して飲食できるようにし、昼はカフェや食堂、夜は居酒屋として営業を始めた。お茶を飲んで会話を楽しんだり、お酒を飲みながら会合を開いたりするなど、住民のコミュニケーションの場を提供し、季節ごとには山菜まつり、ビール祭り、芋いも祭りなど、地域の特色を生かして、みんなが集まるイベントも開いている。
また、耕作放棄地ではヤーコンやブルーベリー、最近では丸芋や薬草のシャクヤクなど新たな作物の栽培に取り組み、地域の特産品の開発にも挑戦。ほかにも三世代グランドゴルフ大会や、里山の自然や地域の史跡を巡るウォーキングイベントなど世代を超えた交流の促進や、人口減少にともない行われなくなった獅子舞や地域行事などの復活にも力を入れてきた。
地域の内外から新たな活力を
こうした取り組みは隔月で印刷する「里山通信」を全世帯に配布して周知するとともに、ホームページで地域外にも発信している。地域の見所をまとめたパンフレットを作成したり、空き家状況も独自で調査するなどしてきて、県内外から7件の移住につながった。
「色々なことをできるのは、昔から仲の良い地域だったから。しかし協議会の活動がなかったら人間関係が薄くなっていたかもしれない」と松井さんは話す。協議会副会長の野澤敏夫さん(72)は設立当初から様々な企画に携わってきたが、実は自身も協議会の活動で知り合いになった人が多く、「色んな機会で顔見知りが増えると、もっと地域が楽しくなる」と言う。
新型コロナの自粛期間や、能登半島地震で国道359号が山間部で崩落した影響で人流が減り、現在は「村の駅」の食堂営業を休止しているが、昨年は大きな石を持ち上げて力自慢を競う「盤持ち石大会」を60年ぶりに復活させ、今年は移住者による「移住民泊研究会」を発足するなど、新たな地域の活力の創造に取り組んでいる。
月刊富山県人 2024年10月号