木彫刻の町、南砺市井波。古刹瑞泉寺や彫刻師の工房が並ぶ町並みなど、歴史と文化を感じられる観光地として知られているが、近年空き家を改装した飲食店や宿泊施設が増え、県内の若者にも人気の町になっている。
住民による様々な地域活性化の取り組みの中で、核になっているのが異業種グループ「ジソウラボ」だ。メンバーは井波の若手経営者や井波出身の起業家など様々だが、人口減少の中で、商店の廃業や空き家の増加などの課題を抱える地域で、パン屋やコーヒー店、クラフトビール醸造所などをオープンしてきた。地域の交通問題にも取り組んでいる。
つくる人をつくる
特徴的なのは、新しい事業を自分たちで運営するのではなく、挑戦する人を募って伴走支援するところにある。「焼きたてが食べられるパン屋さんを作る」、「コミュニケーションに欠かせないビールを作る」とプロジェクトを提起し、挑戦する人を呼び寄せて、創業のアドバイスや地域住民とのコミュニケーションなど、知らない土地での起業を全面的にバックアップしている。
代表理事の島田優平さんは林業を営む島田木材の社長。2017年に理事長を務めたとなみ青年会議所では砺波・南砺の活性化策を行政に提言してきた。18年には井波の歴史や文化が文化庁の「日本遺産」に認定されると、ワーキンググループの座長を務め、地域の人と一緒にPR活動や土産物の開発を行ってきた。
20年、日本遺産として国の補助を受けられる最後の3年目に新型コロナが蔓延し、人の流れが止まった。日本遺産のプロジェクトが終わっても地域づくりの活動を続けたい、そして何より「ハード」より地域を支える「人」が必要だと感じていた島田さんは、賛同したメンバーとともに、「土『地』の力を継承し、『自』らの力で『創』造し、自立して『走』り出す」団体、「ジソウラボ」を設立した。その第一弾プロジェクトが地域に愛されるパン屋さん。東京で働いていた高岡市出身のパン職人がUターンし、21年2月にオープンした。
空き家問題もプロジェクト化
こうした動きは、田舎暮らしや地方での起業の関心の高まりとも相まって全国から注目され、井波での新規出店が連鎖的に起こっている。
地元で小西不動産を営む小西正明さんはUIJターンの活発な動きに応えて、空き家の再生に力を入れている。古い建物を壊して更地にするのではなく、町並みを生かして新しい人に活用してもらうのだ。小西さんによると、2016~18年の3年間に空き家を民泊施設や飲食店などに改修、転用した例は5件だったのが、「面白い人が面白い人を呼ぶ」と話すように、19年から現在までの3年半で32の空き家が店舗やオフィスに生まれ変わったという。
現在も「井波で起業したい」と相談を受けていて、小西さんも自身の立場で地域の課題に向き合おうと22年に一般社団法人「アキヤラボ」を設立し、ジソウラボとの協力態勢を取っている。
井波彫刻は260年前、焼失した瑞泉寺再興のために京都から派遣された1人の彫刻師が地元の宮大工に技術を伝えたことに始まる。その技を学びに全国からの弟子入りを受け入れ、育った技術が国内外に広まった。島田さんは「井波彫刻と同じように、町が進化するための始まりとなる人がいなくてはいけない。100年後につながる町の源泉を作りたい」と話す。
月刊富山県人 2023年10月号