介護需要が増える一方、介護現場は職員の不足や高齢化など抱える問題は多く、こうした課題解決のため、黒部市社会福祉協議会(社協)が中心となって、「SMARTふくしラボ」が立ち上がった。ラボでは、福祉の問題だけでなく、市民や行政とも連携し、新たな「移動」のあり方に挑戦している。
介護の課題は社会の課題
黒部市は海から山まで細長く広がり、介護職員にとって訪問や送迎の移動時間の負担は大きく、特に山間部では充実した福祉サービスが難しくなっている。
ラボのプロジェクトマネージャーを務める小柴徳明さん(47)は、黒部市社協の職員だった2015年、配属された総務課で、中長期的に介護現場の改善を図る必要があると「経営戦略係」を設置した。福祉現場の調査や、全国の先進事例を研究をするとともに、新川地区の福祉事業者を巻き込んで、デジタル技術を活用した送迎車両の共用化の実証実験などにも取り組んできた。
活動を続ける中で、移動の問題を抱えるのは福祉の現場だけではないと分かってきた。公共交通の減便や廃線が進み、要介護者でなくても車がないと買い物が困難になり、また子どもの習い事にも家族の送迎が必要になっている。この移動の問題を広域的に考え、デジタル技術で見える化して解決を図ろうと、2022年「SMARTふくしラボ」が設立された。
ラボの取り組みの一つに、町全体を使った介護予防「Goトレ」プログラムがある。介護予防とは、元気な高齢者が介護が必要にならないように健康寿命を延ばすこと。Goトレは電車やバスを使って市街地や宇奈月の温泉街に行き、目的地でそれぞれ好きなように過ごしてもらうというもの。腕には時計型端末をつけ、運動量や心拍数など、外出による介護予防の効果を測定する。

お出かけで介護予防 Goトレプログラム
介護予防の体操教室や口腔ケアなどがよく行われるが、「お出かけすれば、歩く、食べる、おしゃべりするなど、自然と介護予防に繋がる」と小柴さん。さらにGoトレには別の効果が期待できるという。
一つは外出機会の創出。自宅にこもりがちな人も、景色を見たりおしゃべりしたりすることで、前向きな気持ちになる。また車社会に慣れ、電車やバスの乗り方が分からない人が多いため、免許返納前の公共交通利用のトレーニングにもなり、公共交通や商店街の活性化にも繋がる。
社会全体で「移動」を共創
さらに昨年2024年、「コミュニティドライブプロジェクト」が始まった。「移動」の問題を行政や交通事業者に任せっきりにするのではなく、自らの課題として一緒に考えようという取り組みだ。

多様な人と移動課題を考え共創する
これまで市民、行政、企業向けにワークショップを開き、延べ230人が参加。様々な意見や問題点を出し合うと同時に、自分も参画したいという「コミュニティドライバー」が10人生まれた。そして今秋から具体的な試みが始まる。
例えば、山間部に住むデイサービス利用者を、地域の人が最寄り駅まで送迎し、町までは鉄道に乗ってもらい、駅で介護事業者が迎えるという仕組みだ。デジタル技術で色々な人やサービスを繋ぎ、「共創」による新たな移動のモデルを生み出そうとしている。
2030年、団塊の世代が80代になる。医療・福祉だけでなく、様々な社会課題が増える中で、ラボでは市民、行政、企業の「共創」とデジタルの活用で少子高齢化社会の問題解決に取り組んでいく。